こんにちは、リノエッジ代表の原田祥吾@ベトナムです。
いきなりですが、僕はずっとある思い込みをしていました。
「オフショア開発が失敗するのは、相性の問題だ」と。
いいベンダーに当たれば成功する。当たり外れがある。だから慎重に選ばないといけない——そういう話として、ずっと捉えていたんですよね。実際、同業の経営者と飲みながら話していても、この話になると大体「うちは運が悪かった」「あそこは当たりだった」というガチャの話に落ち着きます。
でも、何年もこの仕事をやってきて、正直に言うと、それは違うなと思うようになりました。
「ベトナムだから失敗した」は、証明できない
発注する側の会社って、大体こういう流れをたどるんです。
これまで日本国内の外注や、使い慣れたフリーランサーに頼んでいた感覚のまま、オフショアに出す。そして現場は、正直そっちのほうが楽なんですよね。日本語が通じるし、阿吽の呼吸も効く。
そこで問題になるのが、「なぜベトナムに出すのか」を、会社が現場にちゃんと言葉にして伝えていない、というケースです。経営としては「コストを抑えたい」「人材が採れない」という理由があるはずなんですが、それが現場まで降りていない。すると現場には、ただ「使いにくいものを押し付けられた」という不満だけが残るんです。
そして何かトラブルが起きたとき、その不満が一番手っ取り早い説明に化けます。
「やっぱりベトナムだから失敗した」
この一言、実はすごく厄介なんです。誰も反証できないから。「ベトナムだから」と言われたら、次に何を直せばいいのか、誰にもわからなくなる。国のせいにしてしまうと、直すのは自分たちじゃなくて相手だ、という話になって、そこで止まってしまう。言い訳に逃げると、そこから先の改善が生まれないんですよね。
ちょっと恥ずかしい話をすると、僕自身、この構造に気づくまでに時間がかかりました。ベトナムで会社を経営している僕も、最初は「相性が悪かったんだろうな」で片付けそうになったことがあります。でも、実際に何が起きているかを一つずつ見ていくと、答えはいつも同じところに戻ってくるんです。
つまずきの多くは、日本語の「察してくれ」だった
じゃあ、その言い訳に逃げ込まずに、実際に何が起きているかを見にいくとどうなるか。
多くの場合、原因は国の違いでも能力の違いでもなくて、日本語という言語そのものの癖でした。日本語って、はっきり言わなくても通じることを前提に作られている言語なんですよね。高文脈、というやつです。
例えば、こんな指示。白状すると、どれもかつての僕が書いていたものです。
「なるはや」——期限を切っていません。今日中なのか、今週中なのか、書いた本人にしかわからない。
「微妙です」——柔らかく断っているつもりでも、何がどう微妙なのか、聞かないとわからない。
「調整します」——誰が、何を、いつまでにどう決めるのか、実は何も決まっていません。
極端な例を出すと、「この件、なるはやでいい感じに対応お願いします」という指示。これ、日本人の同僚に投げても伝わらないと思うんです。曖昧すぎて。ところが国内の外注や日本語フリーランサーには、なぜか通ってしまう。長年の付き合いで培った「察し」が、隙間を埋めてくれているからです。
僕はここに、長いこと気づいていませんでした。自分たちの「察してくれ」を、当たり前の共通言語だと思い込んでいたんです。でも、その察しはベトナムのメンバーには届かない。届かない理由は能力の差じゃない。そもそも僕らが言葉にしていなかったからです。伝わらなかった責任を、うっかり相手の国のせいにしていた。
ここに気づいてから、うちのやり方は変わりました。「なるはや」は使いません。「今週金曜17時まで」と書く。「調整します」は「誰が・何を・いつまでに」に書き換える。曖昧な言葉を一つ削るたびに、驚くほどトラブルが減っていくんですよね。
それだけでは、足りなかった話
「言葉を明確にすればいい」——僕も最初はそう思っていました。でも、それだけでは足りなかったんです。
もう一つ、僕が痛感していることがあります。1〜2人でできる規模の仕事を、そのままオフショアに出すのは、実はあまり効率が良くないということです。
個人にお願いすると、どうしてもその人に依存します。その人が休めば止まる。辞めれば、また一から探す。仕様の背景を知っているのはその人だけ、という状態になりやすい。これは国が変わっても変わらない、シンプルな構造の話です。
3〜5人以上の規模で、”チーム”として発注する。そうすると、途端に景色が変わります。誰か一人が抜けても、チームの中に文脈が残っているから引き継げる。品質をならすのも、一人の腕前ではありません。チームの標準です。属人化が、構造として消えていくんです。
僕が反省したのは、チームのメンバーが提案を持っているのに、こちらから聞きに行くまでそれに気づけていなかったことです。責任感が強い人ほど、勝手に踏み込んでいいものかと遠慮するんですよね。だから、こちらから「どう思う?」と聞きに行く。それだけで、良い提案がいくつも出てくるようになりました。
これは別の記事でも書いたんですが、AIが競合になる時代、価値を出すのはもう「安い個人」じゃない。文脈を積み上げた「チーム」なんですよね。個人商店的な発注のまま失敗を重ねるのは、実はこの一点だけでかなり避けられます。
じゃあ、うちはどうしているか
ここまで、失敗の構造を2つ話しました。曖昧な日本語を放置すること。そして、個人任せの発注を続けること。どちらも「ベトナムの問題」ではなく、僕らも含めた、発注する側の設計の問題でした。
だから、うちで意識してやっていることはシンプルです。
まず、なぜベトナムに出すのかを、会社としてはっきり決める。「人材がいないから、人材がいる場所に行く」——このくらいシンプルでいいので、経営が決めて、現場まで浸透させる。「なんとなく安いから」で止めていると、現場の納得感が育たず、トラブルのたびに「ベトナムだから」に逃げたくなります。
次に、チームに任せる規模で発注する。個人単位では出さない。仕組みは宣言した日には生まれません。誰かが「あのチームがいたから助かった」と実感した日に、初めて仕組みは動き始めます。
そして、チームの側から出てくる提案を、こちらから聞きに行く。ヒーロー一人に依存しない。システムとして機能させる。エンジニアを「リソース」と呼ばない。名前で呼んで、意見を聞く。地味なんですが、この積み重ねが結局一番効きます。
あなたの現場では、どうでしょう
僕も偉そうなことは言えなくて——うちも外に仕事を出す側に回ることがあるんですが——この構造に気づくまで、何度も同じ失敗を繰り返しました。「相性が悪かった」で片付ける。次の相手を探す。また同じことが起きる。その繰り返しです。
でも、原因を「相性」のせいにするのをやめてみたら、直せるところが少しずつ見えてきました。曖昧な言葉を削る。チーム単位で頼む。なぜその国なのかを、自分の言葉で説明できるようにしておく。どれも地味ですが、明日から手を付けられます。
もし今、「うちのオフショアはうまくいっていない」「これから出すのが不安だ」と感じているなら、一度、相性の話をわきに置いてみてください。そのかわりに、「うちは、何を言葉にしていなかったか」を、探してみてほしいんです。うちはこうやって直してきました。あなたの現場では、どうでしょう?
よくある質問
オフショア開発で起こりがちな失敗は?
コミュニケーションの行き違い、要件のズレ、品質のばらつきがよく挙げられます。ただ現場で見てきた限り、その手前に「なぜ海外に出すのか」が現場に共有されていない、指示の言葉が曖昧、という発注側の構造が隠れていることが多いです。失敗の一覧より、失敗が生まれる構造を先に見るのが近道だと思っています。詳しくはオフショアの価値がAI時代にどう変わるかの記事にも書きました。
「オフショアは使えない」と言われるのはなぜ?
「なるはや」「調整します」のような日本語の非明示表現が海外チームに通じず、成果のズレが「能力の問題」に見えてしまうためです。実際は発注側が期限・担当を言葉にすれば防げるケースが多い、というのが現場の実感です。「使えない」と感じた場面ほど、指示の言葉づかいを読み返す価値があります。
オフショア開発を成功させるには、何から始めればいい?
①「なぜこの国に出すのか」を経営が言葉にして現場と共有する ②期限・担当が曖昧な言葉を削る ③発注は3〜5人以上のチーム単位にする(1〜2人の個人単位では出さない)。この3つです。費用の相場感を押さえたうえで、自社ではどれから手を付けるべきか——そこは下の壁打ちで一緒に整理できます。
その不安、まず原田に話してみませんか
発注前に見ておきたい観点も、いま抱えているモヤモヤも、現地で経営してきた立場から一緒に整理します。営業ではなく、壁打ちのつもりで来てもらえれば。
15分の壁打ちを予約する →東京とベトナムの二拠点で、ITオフショア開発・海外進出支援事業を展開。「気合いより仕組み」を信条に、不透明になりがちな越境ビジネスを構造化する経営者。「個人のスキル」ではなく「再現性のある品質」を組織と顧客へ提供することにコミットしています。
