日本の商品を海外に売りたいんです、越境ECなら小さく始められますよね。という相談を、これまで何度も受けてきました。
甘酒、コスメ、食品。日本のいいプロダクトを持っている方は本当に多くて、話を聞くたびに「これは海外で戦えるだろうな」と思います。で、僕の答えはいつも半分イエスなんですが、、残り半分がイエスと言い切れなくなってきたのが、ここ最近の変化です。
先に言っておくと、これは「越境ECはやめておけ」という話でも、「規制が怖いぞ」と煽る話でもありません。実際に僕が甘酒の越境販売をサポートし、いまコスメの正規輸入手続きを進め、シンガポール向けのECサイトを作ろうとしている中で見えてきた、「あとで直せるもの」と「入口で決まるもの」の仕分けの話です。
「小さく始める」は、いまも正しい。ただし
越境ECの定番アドバイスに「最初から大きくやるな、小さく始めろ」があります。これ自体はいまも正しい。僕も相談を受けたら、まずは小さくテストしましょうと言います。
ただ、この言葉には賞味期限切れの前提が混ざっていることがあって。「小さく始める=個別発送でとりあえず売ってみる」という意味で使われている場合、それはもう通用しなくなってきています。
象徴的なのがベトナムです。2026年7月1日に電子商取引法(Law No. 122/2025/QH15)が施行されて、越境ECの管理・監督が政令レベルから法律レベルに格上げされました。プラットフォームには出品者の確認義務が強化され、国境をまたぐEC活動への条件づけが明確になっています。昔は個人輸入っぽい形の販売にルールがあってないような緩さがありましたが、その時代が終わりつつある。というのが現場の実感です。
ここで大事な仕分けがひとつあります。
通関で止まらなかったことと、商業販売として合法なことは、別物です。
荷物が届いた、だから大丈夫。とはならないんですね。継続的に売っていれば、当局やECプラットフォームからは商業流通として見えます。だから僕は、個別発送を販売には使いません。位置づけはあくまでサンプル。反応を見て、次のステップに進むかを決めるための道具です。
入口で決まるものは、3つ
じゃあ何が「入口で決まるもの」なのか。僕の経験では3つに絞られます。
逆に、あとで直せるものも先に言っておきます。価格、ページのデザイン、広告の回し方、ツールの選定。ここは走りながら何度でも変えられます。入口は、そうはいかない。
1つ目: 誰がその国で責任を持つか
ベトナムで化粧品を売る場合、市場に流通させる責任主体がベトナム国内に必要で、商品ごとに公表受理番号を取る仕組みになっています(JETROの解説によると、この番号の有効期間は5年。申請には成分表、メーカーからの委任状、現地事業者の登録証明などが要ります)。5年経ったら再申請が要るので、この手続きは一度きりでは終わらず、更新コストとして長期の計画に織り込んでおく話になります。
つまり先に来る問いは「ベトナム国内で、誰の名前で責任を持つか」。日本から送れるかどうかは、その後の話です。現地の輸入代理店が持つのか、ディストリビューターが持つのか、自社で法人を作るのか。ここが決まらないと、ECで売るもTikTok Shopに出すも、その先の話が全部宙に浮きます。
余談ですが、これはインフルエンサーを使ったライブコマースでも同じでした。ベトナムのインフルエンサー側も、責任の所在がちゃんと国内企業にあることを確認したがります。自分がバンされたくないですからね。責任主体の設計は、売る側だけの問題じゃなくて、組む相手の安心材料でもあるわけです。
2つ目: 何として国境を通すか
同じ商品でも、HSコード(貿易上の商品分類)が何になるかで関税が変わります。だからここは成り行き任せにせず、何として通すかを先に設計しておくところです。コスメで機能性を謳えば分類が変わり、必要な許可も変わります。甘酒も、機能性飲料として訴求するなら保健省への広告許可の話が出てきます。
甘酒のプロジェクトでは、ノンアルコールであることが効きました。アルコール飲料の枠に入ると、関税も許可書類も一気に重くなる国なので。同じ「日本の発酵ドリンク」でも、何として通すかで難易度がまるで違います。この「日本で売れている形のまま持ち込むと重くなる」構図は、日本品質のままベトナムに進出するとハードモードになる話とも地続きです。
あと、地味に効くのが物流です。甘酒のような要冷蔵の商品だと、日本のクール宅急便レベルの輸送網は現地にはありません。商品の設計段階で常温流通できるかどうかが、実は販路の広さを決めていたりします。
3つ目: どう言うか(効能表現の設計)
これはコスメの案件でいま進行中の話なんですが、ベトナムでは「抗菌」「消臭」「改善」と書いた瞬間に、化粧品ではなく医薬品側の扱いに寄ってしまいます。登録が一気に重くなる。
言えないのかというと、そうでもなくて。
- 抗菌 → 肌バランスを整える
- 消臭 → ニオイケア(香りによるカバー、と注釈をつける)
という形で、規制の内側に収まる言葉に設計し直せます。「改善」も同じで、ケアやアプローチという言葉に置き換えていく。訴求を捨てるんじゃなくて、翻訳する。この言葉の設計を入口でやっておくかどうかで、あとの広告もページも全部変わってきます。
ついでに言うと、成分の開示交渉も入口の仕事です。登録には防腐剤の濃度みたいな配合率情報が要るんですが、OEMメーカーさんにとって配合率は企業秘密なので、原則は開示してもらえません。どの成分だけ濃度を出してもらうか、1%以上か未満かの情報で足りるか。この1%が何を分けるかに決まった答えはなく、案件ごとのすり合わせで決まります。だから、ここを製品選定の段階でやっておかないと、あとで詰まります。
で、何の反応を見て「次」を決めるのか
ここまでが入口の話。サンプルを送って、何を見て本格参入を決めるのか。
展示会は、パートナー探しの場としては機能します。ディストリビューターや問屋さんとの出会いは、いまも展示会が起点になることが多い。展示会に合わせて現地を視察するなら、ベトナム視察で信頼をつかむ7つの言葉も参考になると思います。ただ、参入判断の材料としては、僕は展示会の反応をあまり信用していません。展示会って、みんないいことしか言わないんですよ。「素晴らしい商品ですね」で名刺交換して、その後何も起きないことは本当に多い。
見るべきは、流通の最前線にいる販売店の反応だと思っています。リアル店舗が「うちの棚に置く」と言ってくれるか。しかもリップサービスじゃなくて、発注書を切る覚悟があるか。同じくらい効くのが、日本側で委任状や成分表がすぐ出る体制になっているかです。僕らも案件の最初にここを確認します。メーカーさんに悪気がなくても、社内決裁や取引先との兼ね合いで書類に時間がかかることは普通にあって、書類が出るまでの時間がそのまま立ち上がりの時間になるからです。この確認はマーケットR&Dの入口でやっている作業で、書類が出るまでの時間を先に測っておくと、立ち上がりの見積もりが現実的になります。
流通網の開拓も、順番は同じ構造でした。在庫を抱えてくれる問屋さんを最初から口説きに行っても動きません。先に発注してくれる小売店があって、初めて問屋さんが動く。だから、越境ECで小さくテストする → 置いてくれる店舗を見つける → 流通が動き出す、という順番になります。
入口をここまで設計する分、個別発送でとりあえず売り始めるよりも、立ち上がりは確実に遅くなります。公表番号や委任状の準備で、待つ時間がそのまま乗ってくる。では遅い分だけ不利かというと、そこは違って。正規でちゃんとやるのはコストに見えますが、逆です。責任主体が曖昧なまま進めると、目に見えない調整コストがあとからじわじわ効いてきて、結局余計なお金がかかります。それと、ベトナムのお客さんはオンライン購入で偽物をかなり警戒するので、「正規輸入品です」と言い切れること自体が売り場での武器になります。
僕らがShopifyで作っている理由
宣伝ぽくなるので手短に。うちはこの「小さく始めて、正規販売に育てる」の入口をShopifyで作っています。いまはシンガポール向けに、日本のプロダクト300品目を扱うECサイトを、同じ仕組みで作ろうとしています。
理由はシンプルで、マーケットごとの通貨・価格・配送の設定が最初から揃っているので、サンプル的な小さいテストと、その後の正規販売を同じ基盤の上で切り替えていけるからです。弱みも言っておくと、売れる前の月でも月額費用は出ていきます。無料で試せる基盤ではないので、うちでは「テスト用と本番用でサイトを作り直さない」ための固定費と割り切っています。ツールの話は、入口の設計が済んでからで十分です。
持ち帰ってほしい問いは1つ
長くなったので、持ち帰りはひとつに絞ります。
誰かが(自分自身が、でもいいです)「越境ECを始めたい」と言ったら、「その国で、誰が責任を持ちますか?」と1回止まってみてください。
即答できるなら、入口の設計はたぶんできています。答えに詰まったら、商品の話でもサイトの話でもなく、そこから始めるのがおすすめです。甘酒でもコスメでも、そこをクリアしないと次へ行けない場面が、実際に何度もあったので。肌感ですが、売る前の設計で八割決まる、くらいの世界になってきたと思っています。
よくある質問
Q. 越境ECの規制は、何から確認すればいいですか?
まず、売り先の国で誰が責任主体になれるか。次に商品のHSコード分類と関税協定の適用、最後に効能表現が現地規制の内側に収まるか、の順です。僕の経験では、この順番を逆にした案件ほど後半で止まります。日本で売れている形のまま持ち込むと重くなる構図はベトナム進出がハードモードになる話にも書きました。
Q. 個別発送でのテスト販売は違法なんですか?
国と商品によります。ただ、通関できることと商業流通が認められていることは別物です。ベトナムは2026年7月施行の電子商取引法で越境ECの管理が強化されており、継続販売は商業流通として扱われる前提で設計する方が安全です。僕らは個別発送をサンプル配布に限定しています。現地の規制実務を任せる相手の選び方はベトナム市場参入でコンサル会社をどう選ぶかにまとめています。
Q. 自社の商品が越境ECに向いているか、どう判断すればいいですか?
「その国で誰が責任を持つか」に即答できるか、商品が常温流通できるか、書類(委任状・成分表)がすぐ出る体制か。この3つで当たりがつきます。数字より先に、売り場を自分の目で見るのも近道です。現地に行くならベトナム視察で信頼をつかむ7つの言葉をどうぞ。迷ったら、下の壁打ちで一緒に当たりをつけましょう。
自社の商品だとどこが入口になるのか、当たりをつけたい方は、下の壁打ちを使ってください。
越境ECの入口設計、壁打ちしませんか?
ベトナム・東南アジア向けに日本の商品を売りたい方の壁打ち相手をやっています。責任主体の設計、規制の当たりづけ、ShopifyでのECの立ち上げ。現地で会社を経営している立場から、率直にお話しします。
壁打ちを予約する →東京とベトナムの二拠点で、ITオフショア開発・海外進出支援事業を展開。「気合いより仕組み」を信条に、不透明になりがちな越境ビジネスを構造化する経営者。「個人のスキル」ではなく「再現性のある品質」を組織と顧客へ提供することにコミットしています。
