こんにちは、リノエッジ原田祥吾です。
シンガポールで飲食の仕事をしている知人と話していて、繰り返し出てきたのが「戦略のない店舗運営をしている人がすごく多い」という話でした。広告を出し、SNSを回し、インフルエンサーにも払う。やった直後は数字が動きます。翌月には元に戻っていて、何が効いたのかは残っていない。
うちはいま、そこに向けてAIで店舗のマーケティングを診断するモノマーク(MONOMARQ)というサービスを作っています。人の健康にはドクターがいて、診断して、処方箋を書いて、「次回また来てください」と言って、前回の結果から次を決めます。店のマーケで、この循環まで一緒に回してくれる相手は、少なくとも僕たちの周りでは見つかりませんでした。その知人とは森岡毅さんの『確率思考の戦略論』を互いに読んでいて、あの本の考え方をロジックとして実装できないか、という話が最初から噛み合っていたのも、もうひとつの出発点です。
今日書きたいのは、そのサービスの説明ではありません。作り始めてすぐに自分たちが出した1件の間違いと、それが何の間違いだったのかを、僕があとから取り違えていた話です。
競合5件の1軒目が、倒産していた
シンガポールの1店目を診断して、知人に見せたときのことです。人力なら何時間もかかるデータをAIで揃えて出せて、そこは驚いてもらえました。
問題はそのあとでした。競合として載せた5件の1軒目が、1年ほど前に倒産していた店だったんです。現地にいる知人なので、すぐに気づきました。「この店、もうないですよ」。
怖かったかというと、そうでもないんです。実証実験ですし、お金をいただいているお客さんでもない。実験だということも先に伝えてありました。ただ、5件の1軒目がそれか、と。やっちまったな、とは思いました。
データは、間違っていなかった
しばらくは、「AIが出したものを人が確かめる工程がなかった」という話だと思っていました。今は、それは半分だと思っています。
あのレポートが出しているのは、Googleマップやインスタ、TikTok、口コミサイトで、その店が今どう見えているかです。評判、レーティング、書かれている口コミ。外から見た姿を並べたものです。
その定義でいくと、閉店した店が入っていたことは誤りではありません。検索すれば出てくるし、評価も残っている。一般のユーザーからは、まだ比較対象として見られています。無料で出している第一レポートとして、中身を変える必要はないと思っています。
壊れていたのは別のところでした。あのレポートが何を言っているつもりなのかを、僕たちが紙の上に書いていなかったことです。
読む側は「営業中の競合5件」だと思って読みます。出す側は「ウェブ上での見え方5件」のつもりで出しています。ずれていたのは、この2つのあいだです。数字の精度の話ではありません。足りなかったのは但し書き1行でした。「これはウェブ上でこう見えています」。
そのうえで、Googleマップは閉まった店に Temporarily closed という表示を出します。うちのAIのチェックは、その項目を読んでいませんでした。ここは必須チェックに入れることにしました。ただ、1項目を足したという話であって、但し書きのほうが本体です。そしてその但し書きは、まだ入れていません。第一レポートのどこに、どういう言い方で置くのかが決まっていない。いま、いちばん自信がないのはそこです。
なお、お店や会社のどのデータをAIに渡していいのかという線引きの話は、別の記事に書いています。
同じずれは、いま届いているレポートにもある
これはうちだけの事故ではないと思っています。
広告代理店から毎月レポートが届く。インプレッションが伸びた、クリック率が上がった、と書いてある。数字は正しい。でも、その数字が何を言っているつもりなのかは、たいてい書かれていません。受け取る側は「売上に効いた」と読み、出す側は「配信面での反応」を出しているだけ、ということが起こります。
数字そのものは間違っていないので、指摘のしようもありません。ずれたまま、次の支出を決めることになります。
だから、うちが自分のレポートに足そうとしているものと同じものを、受け取る側として聞いてもいいと思っています。「この数字は、何を測ったものですか」。売上と結びついた数字なのか、ウェブ上での反応なのか。そこに答えが返ってくる相手なら、そのレポートは次の判断に使えます。
AIを追いかけている間は、AIは導入されないという記事で「目の前の1個を決め打ちで潰す」話を書きましたが、その1個の中でも、こうやって転びます。
売っているのは、効く施策ではない
モノマークが売ろうとしているのは、「効く施策」ではありません。「やった施策の結果が分かる状態」です。
ある施策をやって、効果がないことが分かった。それは成果だと思っています。ダメだったと分かれば、やめられる。やめた分のお金と時間の使い道が、前回の結果から出てきます。
「ダメと分かっても、売上は1円も増えない」と思った方へ
そのとおりで、売上を作るのは、あくまで施策そのものです。
ただ、さっきの店の話に戻らせてください。インフルエンサーに払って、その月の売上が少し伸びたとします。何が効いたのか分からなければ、次の月にもう一度払うかどうかは、また「なんとなく」で決めるしかありません。「平日ランチには効いていなかった」と分かっていれば、次の一手は変わります。
1回分では、小さな差です。これを1年分積むと、「なんとなく」を12回重ねた店と、「前回の結果」を12回重ねた店になります。12回というのは、月1回の支出を1年続けただけの数字です。
だからモノマークでは、「売上が何%伸びます」という約束はしていません。約束できるのは、効いたか、ダメだったかが分かる状態にすること。そこまでです。
うちの会社も、同じでした
これは店舗さんだけの話でもありませんでした。うちも制作の会社で、毎週ミーティングをやって、数字も見ています。それで「これは効いた」と言い切れる施策を数えてみたら、ほとんどなかったんです。数字を眺めている時間はあったのに、その数字が何を言っているつもりなのかは、うちでも書いていませんでした。
だから、マーケティング診断を設計するときも、AIをどこに使うかをお客さんと決めるときも、いまは「この数字は何を測ったものか」を先に書くところから始めています。
失敗するとしたら、届け方だと思っています。店舗さんに1店ずつ届けることは、うちの規模ではできません。だから店舗を束ねている企業さんと連携して、実例をつなげていく。そこがつながらなければ、モノマークは失敗します。それも含めて、やってみて分かったことを、このブログに積んでいくつもりです。
よくある質問
マーケティングの効果測定は、何から始めればいいですか?
大きな仕組みや専用ツールの前に、次の支出1件だけ、払う前に「終わったあと何を見るか」を1つ決めておくところからだと思います。前年の同じ月と比べるのでも、やった週とやらなかった週を比べるのでもかまいません。比較が粗くても、見るものを先に決めてあれば、後付けの評価にはなりません。
AIを使えば、マーケの効果は分かるようになりますか?
データを集めて比べる時間は、大きく短くなります。うちでも、人力なら何時間もかかるデータが数分です。ただ、うちは競合レポートに倒産済みの店を載せたことがあります。あのとき足りなかったのは、そのデータが何を言っているつもりなのかを書いた1行でした。
マーケティングを外注する側として、発注前に何を確認すればいいですか?
提案とレポートに「この数字は何を測ったものか」が書かれているかを見てください。書かれていなければ、発注前に聞いてみてください。そこに答えが返ってくる相手となら、ダメだった施策も次の選択肢の材料になります。
AIで新しい事業を小さく検証する話、聞きたくなったら
モノマーク(MONOMARQ)は、うちがAIで新しい事業を小さく検証している実例のひとつです。15分で、この記事の続きを「御社の場合はどうか」という角度で話します。次に何を小さく試すか、のヒントくらいは持ち帰ってもらえると思います。
15分の壁打ちを予約する → お問い合わせはこちら東京とベトナムの二拠点で、ITオフショア開発・海外進出支援事業を展開。「気合いより仕組み」を信条に、不透明になりがちな越境ビジネスを構造化する経営者。「個人のスキル」ではなく「再現性のある品質」を組織と顧客へ提供することにコミットしています。
