こんにちは、リノエッジ代表の原田祥吾@ベトナムです。
先に結論から書きます。AIを追いかけている間は、AIは導入されません。
情シスの方と話していると、同じところで足が止まっている、という話を何度か聞きました。新しいモデルが出た。同業のあの会社が何か入れたらしい。社内からは「うちはどうするんですか」と聞かれる。だから調べる。比較する。試してみる。それを何ヶ月も続けている。
それなのに、業務の手順のほうは先月と変わっていない。
情シスの「AI疲れ」という言葉も、最近よく聞くようになりました。
入口で止まっているのは、僕の周りだけではないようです。総務省の令和7年版 情報通信白書(2025年公表・2024年度調査)によると、日本企業が生成AIの導入に際して挙げた懸念事項の1位は「効果的な活用方法がわからない」でした。セキュリティでもコストでもなく、そこが最初に来ている。
ここは正直に線を引いておきます。白書が測っているのは「用途がわからない」という一点だけです。「疲れている」とも「追いかけているせいで決まらない」とも、白書は一言も言っていません。
統計から借りられるのは「多くの会社が入口で止まっている」という事実まで。その理由づけは、ここから先は僕の見立てです。
気づくと、調べる時間のほうが大半を占めていて、決めるところまで行かないまま、また次の比較が始まる。決まらないんですよね。
先に言葉を1つだけ決めさせてください。この記事で「追いかける」と言っているのは、ツール・モデル・プロンプトの最新を押さえ続けることです。情報を追うこと自体を否定しているのではありません。自分も毎日AIを触っていますし、仕事の型を書き込んだ自分用のルールブック(マークダウンのファイル)を、毎週書き換えながら回しています。使い倒すのは前提だと思っています。
ただ、それを続けている限り、社内の業務のほうは変わらない——というのがこの記事の話です。
この記事では、どのツールが強いとか、どのモデルが速いとかの話はしません。来月には変わっている話なので、書いても意味がないと思っています。代わりに、追い方の話をします。
問題は、追う量ではなく、追う対象のほうにあると思うんです。
疲れるのは、追っているものに賞味期限があるから
これ、説明するまでもないですよね。ある言語を何年もかけて覚えて、その言語自体が廃れて、積み上げた努力の多くが、そのままサンクコストになる。IT側にいる人ほど、身をもって知っている話だと思います。
特定ツールの使い方、言語の最新仕様、ある業界の中でしか通じない専門知識。この手のスキルには共通点があります。習得コストが高いわりに、変化のたびに陳腐化する。これ、地味に効きます。
そして今、まったく同じことがプロンプトで起きていると思うんです。便利なプロンプト集を集める。丸暗記する。共有フォルダに貯める。でもモデルが一段進化したら、その多くはどうなるか。通用しなくなる、というより、そもそも要らなくなります。
このあたりは会社でAIを導入するときに何から手をつけるかでも書きました。
疲れる理由は、ここだと思うんです。頑張った分が手元に残らない仕事は、それだけで消耗します。単純に、しんどい。僕自身、今週覚えたことが来月には価値を失うと、どこかで薄々気づいていた時期がありました。
そうなると、いつまでも「まだ決められない、もう少し調べないと」になる——追っても手元に何も残らないので、決めるための足場が育たないんですよね。
「追わなければ取り残される」は正しい
ここまで読んで、こう思った方がいると思います。「いや、AIは週単位で前提がひっくり返る世界だ。追いかけるのをやめたら、その瞬間に取り残される」。
その通りだと思います。僕も同じ実感を持っています。昨日の常識が今日の非常識になることが、この領域では普通に起きる。
ただ、この「追う」という言葉には2つの別物が混ざっていて、ここが混ざったままだと、話が永遠に噛み合わないと思うんです。
ひとつは、ツールの使い方・プロンプトの型・新機能を追うこと。もうひとつは、AIで仕事の何がどう変わるのかという構造を掴むこと。前者は変化のたびにゼロに戻ります。後者は変化のたびに積み上がる。同じ努力なのに、です。
同じ「追う」でも、行き先が逆なんですよね。僕は後者に賭けています。取り残されるのが怖いからこそ、そっちを追ったほうがいいんじゃないか、と思っています。追う対象を、消えるものから消えないものに変えませんか、というのがこの記事の話です。
消えないほうのスキルは、何なのか
僕が賭けているのは、どんな時代でも、どんな場所でも効くナレッジ、つまり汎用知のほうです。具体的には、こういう手つきのことを指しています。
ひとつめが、構造を掴む力。この業務は何と何に分解できて、どこが人でなくてもいいのか。ふたつめが、それを支えるモデル化・構造化。頭の中の暗黙のやり方を、書ける形に降ろす作業です。
この2つには、ツール名が1個も出てきません。だから陳腐化しない。シンプルな理屈です。僕がこの2つに時間を使っているのは、特定のツールやプロンプトの狂騒に惑わされずに済むからです。欲しいのは、正直これだけなんですよね。
とはいえ、僕がいま汎用知と呼んでいるものも、たまたま今のところ消えていないだけかもしれません。そこは自分でもまだ検証中です。
さっきのルールブックの話に戻ります。あれ、いま10個くらいあるんですが、プラットフォームを乗り換えたら丸ごと使えなくなるかもしれません。それは僕も怖い。
でも、あれを書くために「自分の仕事はどこで詰まっていて、何を分解すれば渡せるのか」を延々と考えた時間のほうは、乗り換えても消えないんです。残るのはファイルではなく、手つきのほう。
この手つきが手元にあると、比較資料を最後まで読まなくても「どこを潰すか」を自分で決められるようになります。さっき書いた〈決めるための足場〉というのは、これのことです。
現場は「追わない構造」の中で使う
構造を掴む力は、座学では鍛えられません。鍛える場所は、現場のほう。その入り口が、これです。業務のすき間を、1個だけ決め打ちで潰す。それだけです。
どの工程が人でなくてもいいのかを1個だけ決める——それ自体が、さっきの分解の練習になっているんですよね。
基幹システムを入れても、業務は全部きれいには収まりません。必ずすき間が残る。どこにすき間があるかは、たぶんこの記事より、読んでいる方のほうが正確に言えます。いま頭に浮かんだものが、その一覧です。
難しいのは、その一覧のうち、どれを最初に潰すかを決めるところだと思うんです。そもそもAIが働ける状態になっているかという前提の話も、別に書いています。
うちが最初に潰したのは、プロジェクト管理でした。複数のエンジニアが並行で動いていると、今日どのタスクが終わって、何が追加されて、何が終わらなかったのかを追いきれなくなる。チケットの状態を正しく保つ作業です。地味ですが、ここが崩れるとプロジェクト全体が崩れます。
これに毎回1時間以上かかっていました。それをAIに渡す形にしたら、いまは10分の確認で終わります。ゼロにはなっていません。最後に人が見る工程は残っている。ただ、1時間が10分になった。静かな変化です。
うちは決裁者が自分ひとりなので、この1個を潰すのに最新モデルの比較はしていません。全社に配る基盤を決めるなら、そうはいきません。セキュリティ、データの持ち出し、ライセンス、稟議——あれはツールを比較するしかない仕事です。すき間潰しは、その代わりにはなりません。別の仕事です。
プロンプト集を配るのは、初動としては効きます。触ってもらえないと何も始まらないので。
ただ、配って終わりにすると、次の年もまた同じところから始めることになりがちなんですよね。配ったあとに何を残すか——業務を分解してモデルに落とす手つきのほうが、ツールを乗り換えても持っていけます。僕自身も、まだ自分の仕事を分解している途中で、書ける形になったものから社内で共有していますが、たいてい半分は次の月に書き直しています。
手元にあるAIで、目の前の1個を決め打ちで潰す。全社展開は、いったん脇に置く。まず1個です。1個潰れると、そこはもう追わなくていい場所になります——モデルが来月新しくなろうが、その業務はもう回っている。
これを1個ずつ増やしていくと、「追わなくていい場所」が社内に少しずつ増えていく一方で、比較の結論が出るのを待っている間は、追わなくていい場所は増えないままです。ここが冒頭の結論とつながります。追う対象を1個だけ切り替えて、すき間を決め打ちで潰す。うちの場合は、そこから少しずつAIが社内に入っていきました。
明日、決めるのは「どのツールか」ではない
もし今、AIの比較資料を眺めながら決めきれずにいるなら、問いを1つだけ入れ替えてみてください。
「どのツールを入れるか」ではなく、「どのすき間を、最初に潰すか」。
このレイヤーの答えは、社外の情報の中にはありません。現場のすき間は、モデルが新しくなっても勝手には変わらないので、答えを探しに行かなくてよくなるんですよね。
うちはこの問いに変えてから、社外の情報を眺める時間がだいぶ減りました。減っただけで、正解にたどり着いたわけではありません。
消えるものを追っている間は、手元に何も残らないまま時間が過ぎます。さっき書いた、僕が消耗していた時期のことです。追う先を1個だけ変えてみると、どうなるか。僕もいま、それを試している最中です。
よくある質問
情報収集をやめたら、社内で「何も知らない情シス」になりませんか?
情報収集をやめる話ではありません。追う対象を変える話です。ツールの新機能を全部追うのはやめて、「この変化でどの業務のすき間が埋まるのか」という見方だけ持って眺める。同じニュースを読んでも、手元に残るものが変わります。それに、すき間を1個でも実際に潰すと、その話だけは具体で語れるようになります。
プロンプトのノウハウを社内に貯めるのは、無駄ということですか?
貯めること自体は効くと思うんです。ただ、貯めたものには寿命があります。「この言い回しだと上手くいく」は、消えやすいほう。一方で「この業務はこう分解すると渡せる」は、ツールを乗り換えても手元に残るんですよね。同じ作業を書き残すなら、後者の形にしておくと持っていけます。
最初の1個は、どう選べばいいですか?
効果の大きさより、境界のはっきりしているものから選ぶのがいいと思います。入力と出力が決まっていて、失敗しても業務が止まらない場所。人が手で移し替えている作業や、毎回同じ確認をしている工程あたりが見つけやすいです。大きい業務から入ると、要件定義のところで止まりがちなんですよね。そうなると、また調べるほうに時間が戻っていきます。
自社のどこがすき間なのか、社内だけでは切り出せません。相談できますか?
できます。すき間がどこにあるかは、たぶん御社の中の人がいちばん正確に知っています。外の人間にできるのは、その中から「最初の1個」を決める役を一緒にやることくらいです。決めるのは、たいてい一人だと重いので。現場の業務の流れを一緒に眺めて、その場で1個決めるところまでやります。
追わなくていい構造を、1個だけ作りませんか
30分で、自社の業務のすき間をひとつ選んで、決め打ちで潰す設計まで一緒に決めます。話すのは「最初のすき間を1個決める」ところだけ。今日から「追わなくていい場所」を1個増やすための壁打ちだと思ってください。
30分の壁打ちを予約する →東京とベトナムの二拠点で、ITオフショア開発・海外進出支援事業を展開。「気合いより仕組み」を信条に、不透明になりがちな越境ビジネスを構造化する経営者。「個人のスキル」ではなく「再現性のある品質」を組織と顧客へ提供することにコミットしています。
