ITに関わるリーダーの役割に初めて就いた頃、私はずっと小さな不安を抱えていました。
「自分は技術的に十分ではない。この役割に向いていないのではないか。」
周りには、システム構成、ログ、コードを当たり前のように話すエンジニアがいる。一方で私は、何度も説明を聞き返したり、技術的な話をビジネスの言葉に置き換えたりしながら、「いつか自分のIT知識の浅さがバレてしまうのでは」と感じていました。もし、ITやITD(IT Director)としてキャリアを始めたばかりで同じ不安を持っている方がいれば、この記事を読んでみてください。
本記事における ITD とは
ここでいうITDは IT Director のことです。
IT Directorの仕事は、開発チームと顧客をつなぐ架け橋です。顧客が本当に求めているものを正確に理解して、開発チームが実装できる形に整理して伝える。同時に、開発側の技術的な制約・リスク・判断の背景を、顧客に分かる言葉で説明する。だから ITD は、最も技術に詳しい人である必要はありません。一番大事なのは、人とテクノロジーの間に信頼を築くことです。
視点を変えた、ある実体験
あるプロジェクトで、クライアントからこう言われました。「システムの動作が遅い。IT側の問題ではないか。」
開発チームが確認しましたが、明確なエラーは見つかりません。QAでも同じ問題を再現できない。現場の空気はだんだん重くなっていきました。外から見ればITの対応が遅く見える。一方、IT側の中では「誤解されている」という感覚が強まっていました。
私はその場で、技術的ではない、ごくシンプルな質問をしました。
「いつ、どの画面で、どのユーザーが遅いと感じていますか?」
この質問が、状況を大きく変えました。結果として分かったのは、遅さが出ていたのは「利用が集中する時間帯に、大量のデータを扱う特定のユーザーが、長期間見直されていなかった古い機能を使ったとき」に限られていた、ということでした。問題の本質は、技術だけではありませんでした。コミュニケーションのズレが原因だったのです。
この経験で実感しました。ITDに必要なのは、技術をすべて知っていることではない。技術と実際の利用シーンを繋ぐことだ。
ITは、思っているほど難しいものではない
「IT」と聞くと、サーバーやコードや複雑なシステムを想像する方も多いかもしれません。でも実際のITの仕事は、データを守り、日々の業務を止めないようにし、問題が起きる前に防ぐことです。派手ではないけれど、土台を支える仕事です。
ITは、建物の電気設備のようなものです。配線の仕組みをすべて理解する必要はありませんが、一度止まれば、建物全体が機能しなくなります。「どう作られているか」よりも、「なぜ重要なのか」を理解することの方が大切な場面も多いのです。
AIがITディレクターの働き方を変えた話でも触れていますが、技術の中身を知ることと、技術を使いこなすことは別の話です。
なぜITは「時間がかかる」と言われがちなのか
よく聞かれる不満の一つに、「なぜITはいつも時間がかかるのか?」という言葉があります。
ITの視点では、小さな変更が複数のシステムに影響することがあり、急いだ修正が長期的なリスクを生み、誤った判断が後で大きなコストになることを知っています。ITは遅いのではなく、他の人には見えないリスクを見ているから、慎重なのです。
この背景が共有されると、「なぜこんなに難しいのか」という不満や「ITが進行を妨げている」という誤解は減っていきます。代わりに、協力と信頼が生まれやすくなります。
ITは「問題を直す」だけではない ― 崩壊を防いでいる存在
ITの価値の多くは、目に見えません。システムが安定して動いているとき、誰も気づかない。データが安全なとき、それは当たり前に感じられる。何も起きなければ、評価されることも少ない。
しかしその裏で、ITは起こり得た障害を未然に防ぎ、誰も話題にしないリスクを管理し、必要な場面ではスピードより安定性を選んでいます。ITチームのコミュニケーション失敗5選にもあるように、「何も起きなかった」ことこそがITの最大の成功かもしれません。
ITDの責任は「正しい」だけでは足りない
ITDとして学んだことの一つは、「技術的に正しい判断をする」だけでは不十分だということです。判断の理由を分かりやすく説明すること、非ITの関係者にリスクを理解してもらうこと、信頼関係を積み重ねることも求められます。
技術的に正しいことは重要です。でも、なぜそれが正しいのかを理解してもらうことが、組織の合意を生みます。
IT / ITDとして歩み始めた方へ
まだ十分な技術知識がないと感じている、専門用語に圧倒されている、エンジニアと自信を持って話せない ― そう感じているなら、知っておいてください。
ITのリーダーシップとは、すべてを知っていることではありません。正しい質問をし、丁寧に聞き、分かりやすく伝えることです。これらの力は、経験を積みながら身につけられます。そしてそれは、技術力と同じくらい重要です。
あなたのペース、あなたのレースでも書いたように、焦らず自分のペースで積み重ねることが、最終的には最大の武器になります。
おわりに
ITは、人やビジネスから切り離された存在ではありません。ITは、それらを支えるために存在しています。ITと非ITが同じ言葉で話せるようになると、仕事はスムーズになり、意思決定は速くなり、組織は変化に強くなります。
リノエッジのブリッジSE不要のオフショア開発も、まさにこの「ITとビジネスの直接的なコミュニケーション」を大切にしています。この記事が、技術に自信がなくてもITD・PMとして成長できるという、小さなメッセージとして届けば嬉しいです。
非エンジニアの方でも進められるAI導入もあわせてご覧ください。

Akibi PhuongAkibi Phuong
IT Coordinator · 株式会社リノエッジ
クライアントの曖昧さを開発者がすぐに使える明確な情報へと変換 ― 6つ以上のプロジェクト、リリース前に150以上のバグを検出、そしてスムーズでスマートかつトラブルのない納品を実現するAI搭載ワークフロー。
未経験からITの現場で戦力になるまでの育成プロセスは、IT人材研修・オフショアチーム育成で体系化しています。