AIが日々の仕事に入り込む前、私はその効果をとても単純に考えていました。以前は3時間かかっていた仕事がAIのおかげで30分で終わるなら、休んだり、私用を済ませたり、仕事以外の時間を楽しんだりできるはずだ、と。
けれども、AIを使うほど、現実はそれほど単純ではないと感じます。
AIが仕事を速くしてくれることは確かです。ライターは数分で下書きを作れます。マーケティング担当者は多くの案を試せます。事務職なら長い資料の要約や報告書の作成が速くなり、開発者はコードの理解、バグの調査、テスト作成をAIに手伝ってもらえます。
一つひとつの作業では、確かに多くの時間を節約しています。それでも私が気づいたのは、節約した時間がそのまま自由時間になることは少なく、たいてい別の仕事で埋まってしまうということです。

早く終わっても、仕事が減るとは限らない
以前なら、午後の大半を使う仕事があれば、それだけで午後が終わっていました。今はAIのおかげで1時間で片づくかもしれません。すると、その空いた時間に別の仕事を入れたくなります。
「ついでにあの作業も済ませよう」「もう一案試してみよう」「時間があるから、これも調べてみよう」。
早く終わることが、早く仕事を切り上げることにつながるとは限りません。次の仕事を早く始められるだけ、という場合もあります。十分な内容の報告書をさらに分析し、完成した文章の別案を5つ作り、以前ならメモに留めていたアイデアをその日のうちに試作品にすることもできます。
AIは新しい仕事に着手するハードルを大きく下げました。始めやすくなるほど、私たちは自然と取り組む仕事を増やしてしまいます。
手作業は減っても、判断は増える
AIを日常的に使っていて実感するのは、手を動かす作業が減っても、頭の負担まで軽くなるとは限らないことです。
AIに尋ねれば、数分でいくつもの選択肢が出てきます。しかし今度は、どれが最適かを決めなければなりません。意図は正しく伝わったか。指示を修正するべきか。最初の答えで十分か。もう一度試すべきか。別のモデルならもっとよい答えが出るのか。
AIは選択肢を作るのが得意ですが、その評価には人の判断が必要です。私たちは作業そのものよりも、AIが出したものを確認し、比較し、修正し、決めることで忙しくなりかねません。道具を足すだけでは仕事の進め方が変わらないことは、1980年代のソフトウェアブームからAI導入の教訓を考えた記事でも取り上げています。

同時に抱える仕事が増える
AIのおかげで、複数の仕事を同時に進めやすくなりました。
AIが一つの作業をしている間に、私は別の仕事を始めます。その結果を待つ間に、さらに次の仕事へ移ります。やがて結果が次々に返ってきて、読み、確認し、修正を依頼し、次の判断をするために仕事の間を行き来します。
とても生産的に見える一方で、頭の中でブラウザーのタブを開きすぎたような感覚にもなります。
どの仕事も完全には終わらず、いくつもの作業が自分の判断を待っています。多くの仕事を片づけたのに、普段より疲れている日があります。作業が難しかったからとは限りません。一日中、気持ちを切り替えながら小さな判断を重ねること自体に、負担があるのです。仕事を整理するためのGTD実践記にも、考えるべきことを頭の外に出す大切さが書かれています。
「まだ利用枠が残っているから」
AIの有料プランは、少し不思議な習慣も生みました。利用枠が更新される前になると、「まだ余っている。使わないともったいない」と思いやすくなります。
すると、急ぎではないことを分析し、別案を作り、もう一度確認を頼み、同じ依頼を別のモデルでも試してみたくなります。
試行錯誤そのものには価値があります。よりよい道具や働き方を見つけるきっかけにもなります。ただ、仕事を減らすためにAIを契約したのに、その利用枠を使い切るために自分で仕事を増やしてしまうとしたら、少し皮肉な話です。
新しいAIツールを追うことも仕事になる
AIそのものの変化も速く、新しいモデル、道具、機能が次々に登場します。本来の仕事に加えて、AIの動向を追うことまで日課になりつつあります。
発表を読み、実演を見て、ツールを試し、モデルを比較し、指示の書き方を学び、仕事の進め方を見直します。やっと慣れたころに、また新しいものが現れます。
AIによる変化が大きい分野では、何も試さないことに不安を感じることもあります。自分以外の人が仕事を倍速にする道具を見つけたらどうしよう。今のやり方はもう古いのではないか。
こうしてAIが節約してくれた時間の一部は、さらにAIを学ぶことに使われます。新しいツールを追いかけ続けることの落とし穴は、「AIを追いかけている間は、AIは導入されない」でも取り上げています。

生産性が上がっても、自由時間は増えない
私がいちばん考えさせられるのは、この点です。以前は一日に5つの仕事をしていたのに、AIのおかげで8つ、10とこなせるようになったとします。それ自体はよいことです。しかし10できると分かれば、やがて10が新しい当たり前になります。
できることが増えると、職場からの期待も、自分自身の期待も高まりがちです。節約した時間は驚くほど早く消えていきます。
こう感じているのは、私だけではないようです。カリフォルニア大学バークレー校ハース・ビジネススクールの研究者は、AIツールを使う従業員の実際の働き方を調べ、Harvard Business Reviewで報告しています。AIは仕事を減らさず、むしろ密度を上げていました。人々は仕事のペースを速め、担当する仕事の幅を広げ、頼まれてもいないのに一日のより多くの時間を仕事に使うようになっていたそうです。
予定より2時間早く終わると、「次に何ができるだろう」と考えがちです。「自分のための2時間ができた」とは、なかなか思えません。
AIを上手に使い、やめ時も決める
AIは仕事を速くしてくれます。それでも、節約した時間のすべてを新しい仕事で埋める必要はありません。AIをうまく使うことには、十分なところで止める判断も含まれるはずです。
生まれた時間は、家族や友人、趣味、運動、あるいは何もしない時間に使えます。AIは、できるからという理由で働き続けるための道具ではなく、仕事をもっと無理なく進めるための助けであってほしいと思います。
チーム全体でAIを使い始めるときは、どこにAIを組み込むかを一人ひとりの判断に任せず、業務の流れとして一緒に決めておくと、線を引きやすくなります。リノエッジのAI研修が、ツールの使い方だけでなく業務設計まで含めているのはそのためです。
効率が上がることの価値は、成果を増やすことだけではありません。仕事以外の時間を取り戻し、暮らしをよりよくすることにもあるのです。

コーディングとテクノロジーに情熱を注ぐフルスタックソフトウェアエンジニア。急速に変化するAI時代において、あらゆるトレンドを追いかけるのではなく、自身の思考力と技術基盤を強化することに重点を置いています。
