先に立場を書いておきます。僕はホーチミンでオフショア開発の会社をやっている当事者で、あなたが比較しているかもしれない会社の一つです。なのでこの記事にはポジショントークが混ざります。そのつもりで読んでください。そのかわり、「この条件ならうちには頼まないほうがいい」も具体的に書きます。
ベトナムの開発会社を何社か見て、こう思っていませんか。どのサイトにも「高品質・低コスト・日本語対応可」と書いてある。実績も似ている。結局、単価と会社の人数でしか比べられなくて、最後はなんとなくで決めることになる。
この記事は会社の一覧表ではありません。比較する前に自分の側で答えておく問いと、比較のときに実際に効く軸を書きます。日本の場合、「どこに頼むか」より前に「そもそも出すべきか」でつまずいていることのほうが多いからです。
比較しても差がつかないのは、軸が揃っていないからです
英語版の記事を書くために、ベトナムの主要な開発会社の公開情報を、各社の自社サイトから実際に取って並べてみました。結果は、設立年も人数も認証も、比べられる形になっていません。そもそも今の人数と呼べる数字を書いている会社は5社中2社だけで、残りは沿革に残った数年前の数字か、日付のない「250名へ拡大中」という見出しでした。認証は書いている会社どうしで同じものが並んでいて、差がつきません。
ちなみに、うちも自社サイトに設立年を書いていませんでした。この記事を書きながら気づきました。人のことは言えません。
数字が間違っているという話ではないんです。ただ、これらの数字は、あなたが本当に知りたいことに答えていない。知りたいのはたぶん、1年半後にその開発がまだ進んでいるか、そのプロジェクトを一番わかっていたエンジニアが抜けた後もちゃんと回るか、のほうだと思います。人数はそれをほとんど予測しません。
比較する前に、1つだけ答える問い
その問いは、「なぜ海外に出すのかを、決裁者かPMが自分の言葉で言えるか」です。資料に書いてある言葉ではなく、その人の言葉で。ここが言える会社のプロジェクトは、だいたいうまくいきます。逆に、出てくる答えが「安いから」だけの場合、ベンダー選定より手前の段階で、結果はもう決まっているんですよね。
きれいごとに聞こえるかもしれませんが、実務的なテストのつもりで言っています。安さは海外に出す理由として正当ですし、無視しろとは言いません。ただ、安さだけだと、最初にしんどい週が来たときに、社内の誰にも踏ん張る理由がないんですよね。
出口1: 安さが目的で案件が小さいなら、ここで降りる
やることが1つに決まっていて、動機がコストなら、日本のフリーランサーに1人で頼んだほうが安く済むことが多いです。チームの立ち上げも、時差も、オンボーディングの1か月もいらないので。ベンダーがこれを書くのは自分の首を絞める話なんですが、実際そうなので書いておきます。
出口2: チームを作る気がないなら、ここで降りる
こっちのほうが大きい話です。オフショア開発は「人を安く早く外から買う手段」として売られがちですが、その捉え方だとまず続きません。チームを作るには時間がかかって、その時間を払うには、見積書より大きいもの——野望とかミッションとか、続けたいプロダクトとか——が発注側に要るんです。それがないと、2か月目に評価されて4か月目に静かに終わります。
失敗は、だいたい発注側で起きています
そして振り返りに書かれる理由とは、たいてい別のところで起きています。僕はベンダー側なので、これは客のせいにしているように読めるかもしれません。なので断定ではなく、繰り返し見ているパターンとして書きます。うちが気づくのが遅れた案件も含まれています。
1つ目は、要件が決まっていないこと。これはよくあるし、なんとかなります。2つ目のほうが重い。要件を決められる人が会議に出てこないケースです。毎回、決定が持ち帰りになって選択肢だけが増えていき、そのうち「進みが遅い」と言われる。
3つ目は、そもそも海外に出したくなかったPMがアサインされている場合。その人はきちんと進行してくれます。ただ、味方はしてくれない。オフショアは最初の半年、味方をしてくれる人が要るんです。
4つ目は、受注側があまり書かない話です。安いからという理由で、誰かの反対を押し切っていやいや決まった発注の場合、プロジェクトがうまくいかないほうが都合のいい人が社内にいることがあります。妨害というほど大げさなことは起きません。ただ協力が薄い。そして結果を「ベトナムだったから」に寄せて引き上げる準備がある。心当たりがあるなら、どの会社を選んでも解けません。今期の本当の論点はベンダー比較ではないと思います。この話はオフショア開発の失敗を避ける記事で別途書きました。
どこも書いていない軸は「引き継げるか」です
人は入れ替わります。辞める、昇進する、産休に入る、別の案件に引かれる。比較記事はどれも規模・単価・認証で比べていて、「一番わかっていた人がいなくなった日に、あなたのシステムはどうなるか」を聞いていません。僕なら、この軸が先頭。
うちのバリューの1つに「一人がヒーローにならないと救えないなら、まだ仕組みが弱い」という言い方があるんです。標語みたいですが、実際にそう作ろうとすると運用は3つに落ちます。そしてそれは、最初の打ち合わせでどのベンダーにも聞ける質問になります。うちにも聞いてください。
質問1: ドキュメントはソースコードと連動して更新されていますか
スタッフが抜けるときに資料がどうなるか、を聞いてみてください。ほしい答えは運用の説明です。ソースコードを見ながら、ドキュメントを実態に合わせて直していく、という手順が回っているかどうか。心配なのは、キックオフのときに書いた仕様書がそのまま残っている状態で、これが業界の標準的な姿だったりします。
質問2: 長い案件で、深く理解している人が複数いますか
意図的にローテーションしているかを聞いてください。うちは長期の案件で、そのプロジェクトを深く理解している人が最低2人になるように、あえて人を動かします。短期の速度は落ちます。落とした分で、抜けても回る状態を買っている感覚です。一番強い人をずっと固定で付けてくれるベンダーは、静かにリスクを売っていることになります。
質問3: AIがコードの挙動を、人間が業務の意図を書く分担になっていますか
ここ2年で一番変わったのが、この分担です。細かい挙動はソースコードに書いてあるので、AIが取り出すほうが人より速い。一方でAIが出せないのは、なぜ業務がそうなっているのか、ユーザーは誰か、どの例外が実際に効くのか。そこを書くのは人間です。この線引きを自分の言葉で説明できるベンダーかどうかは、聞けばすぐわかります。
この3つに答えが返ってくれば、認証の一覧を眺めるより多くのことがわかります。うちがこの考え方でどう体制を組んでいるかはAIネイティブなラボ型開発のページに、実務の進め方はシステム開発サービスのページにまとめました。
この条件なら、うちには頼まないほうがいいです
4つあります。3か月目に一緒に気づくより、ここに書いておいたほうがいいと思っています。どれも実際にうちが下手にやってしまう仕事です。謙遜に見せた自慢に読めたらすみません。当てはまる場合は、別のタイプの会社のほうがいい結果になります。
- コストだけが判断基準になっている。 東京と比べれば単価は確かに下がります。ただ、最後に一番安い見積もりで決まるなら、うちより安いところは必ずあります。しんどいトレードオフが出たときに関係が持ちません。
- 小さくて仕様が固まりきった案件を1つだけ出したい。 フリーランサーに頼んでください。安く早く終わります。
- 初日に仕様を固定して、以後は変更しない前提でいる。 うちは、最初のマイルストーンを仮説として扱って、作りながら一緒に決めていける発注者と組むといい仕事をします。変更の余地がない固定スコープは、納品時にお互い驚くことになりがちです。
- オフショアだから優先度は低い、という扱いになっている。 うちのチームはベトナムにいます。それが「二軍」の意味になるなら合いません。これは早めにわかったほうがお互いのためです。
今月できる、絞り込みの進め方
小さくやって、観察できる形にするのがいいと思います。狙いは、契約してしまう前にその会社の振る舞いを実際に見ることです。主張のほうはもう十分に集まっているはずなので。提案書をたくさん読むより、次の3つのほうが情報量が多かったです。稟議も要りません。
上の3つの質問を、最初の打ち合わせで口頭で聞く。 メールで聞くと広報の答えが返ってきます。聞き分けたいのは、実際に回している運用の説明なのか、信じている理念の話なのか。声だとかなり違って聞こえます。
先月エンジニアが実際に使った資料を見せてもらう。 伏字で構いません。動いている案件の生の資料は、実績紹介より規律が出ます。頼まれたときの反応そのものも、けっこう情報になります。
いきなり1年を約束せず、有償の1か月から始める。 小さくても本当に役に立つものを選んで、1週目に出した問題が2週目にどうなるかを見てください。決定がついて戻ってくるのか、進捗報告として戻ってくるのか。そもそも自社が受け入れ側として準備できているかを見たいときは、短いオフショア開発 適合度チェックも用意しています。
これをやってもリスクは残る。ただ、判断の材料が価格表から「自分で見て確かめられるもの」に移ります。選ぶことと、くじを引くことの差は、だいたいそこだと思っています。
FAQ
ベトナムのオフショア開発会社は、どこも同じことが書いてあって選べません。何で比べればいいですか
会社の主張より、実際に回している運用で比べてください。人数・単価・認証はほとんどの会社が出していて、ほとんど差がつきません。かわりに、ドキュメントをソースコードと連動して更新しているか、長期案件で深く理解している人が複数いるか、AIがコードの挙動を人間が業務の意図を書く分担になっているか。この3つは会社によってはっきり答えが違います。
オフショア開発は、日本で頼むより必ず安くなりますか
いいえ。仕様が固まった小さい案件1つなら、日本のフリーランサー1人のほうが安く済むことが多いです。調整の手間、立ち上げ、時差を数えるとそうなります。オフショアの経済性は、繰り返し使うチームを作るところから出てきます。チームを作る予定がないなら、コストの利点はあまり現れません。
候補が数社あるのですが、受注を狙っていない立場で相談できますか
はい。15分で、検討中のベンダーと聞くべき質問を一緒に整理します。うちが向かないと思ったら、その場でそう言うつもりです。結果としてよそに発注することになっても、それはそれでいい着地だと思っているので。
検討中の候補を持ってきてください
15分、提案書なしで話しましょう。検討中のベンダーと案件の中身を教えてもらえれば、僕なら何を聞くか、リスクがどこにありそうか、そもそも海外に出す案件かどうかをその場でお返しします。うちが合わないと思ったら、その場で言います。
15分の相談を予約する → 問い合わせる東京とベトナムの二拠点で、ITオフショア開発・海外進出支援事業を展開。「気合いより仕組み」を信条に、不透明になりがちな越境ビジネスを構造化する経営者。「個人のスキル」ではなく「再現性のある品質」を組織と顧客へ提供することにコミットしています。
