〜あえて「日本の常識」という最強の装備を手放すほうが、実は生存確率があがる話〜
「日本のサービスや商品はクオリティが高いから、海外に持っていけば絶対勝てるはず」
そんなふうに思っている方、けっこう多いんじゃないでしょうか。でも、実はそれ、ちょっと危ない罠かもしれない、というお話です。
こんにちは、リノエッジ代表の原田祥吾です。
今日は、日系企業のベトナム進出について少し書いてみようと思います。
世の中には「ベトナム進出の成功法則!」みたいな立派な記事がたくさんあります。でも正直、その多くが「たまの視察と現地スタッフとの飲み会」だけで構成された、少し解像度の低い景色で語られているような気がして、ちょっとモヤモヤしていたんですよね。
僕自身、15年間ベトナムの現場にいて、本業のシステム開発をしながら、仲間とバーを2店舗経営したりしました。最後は売却したんですが、「バイアウト」なんていうカッコいい言葉では到底まとめられないくらい、まあ、泥臭くてしんどいことがたくさんありました(笑)。
だから、撤退した企業を上から目線で「分析」するつもりはまったくないんです。みんな、現地でギリギリまで戦っていたのを知っているから。
ただ、その経験があるからこそ、「初期装備の選び方」さえ間違えなければ、防げたゲームオーバーはたくさんあるんじゃないか、と思うんです。

「JOY」という、現場と本社のバグ
ベトナム現地法人の日本人社長たちの間で、ある種の「隠語」として自虐的に使われている言葉があります。
「J:じゃあ、O:おまえが、Y:やってみろ」
これ、日本の本社側から「なんで日本のクオリティを出せないんだ」「もっとマニュアル通りにやれ」と現場を無視した指示が飛んできたときに、喉の奥まで出かかっているけれど、立場上「絶対に言えない言葉」なんですよね。
直接反論することはできないから、同じ境遇の社長同士で集まったときに「今日もJOYでねぇ……」と笑い飛ばして消化するしかない。笑えるようで、笑えない話です。
ここで一番しんどいのって、「本来、一番の味方でわかってくれるはずの『同じ日本人(本社)』が、一番現場をわかっていない」という絶望感なんですよね。
むしろ、毎日一緒に汗を流している現地のベトナム人スタッフのほうが、よっぽど状況をわかってくれていたりする。でも、彼らとは根本的なOS(文化や価値観)が違うから、やっぱり根っこの意味ではわかり合えない……という深い孤独もあって。

結果として、「誰も振れない『オーバースペックな最強の武器(高すぎる品質基準)』を渡されても困るんだけど…」という現場のリアルな痛みを100%共有できるのは、同じ環境で無理ゲーを強いられている「現地の日本人社長たち」だけになる、という構造だったりします。
もちろん、本社の人が意地悪でやっているわけじゃないのはわかっています。「日本で築いたこだわりを守らなきゃ」とか「株主に説明できない」という、彼らなりの『正義』があるんですよね。
双方が会社のために真面目に頑張っているのに、距離と文化の壁のせいで、「最強の装備」が、現場の体力と精神力を削るだけの「呪いの装備」になってしまっている。
日系企業のベトナム進出がうまくいかないとき、戦略が間違っていたわけじゃなく、この「構造的なバグ」によって現場がただ消耗しきっていた、というケースがものすごく多い気がします。
「最強の武器」が、現地のフィールドで通用しない件
たとえば、2014年にベトナムへ進出し、一度撤退して2020年に再挑戦している吉野家のケース。
初期の苦戦の理由としてよく言われるのが、「メニューを牛丼に絞りすぎたこと」です。
ベトナムって、ひとりでサクッと外食する文化がほとんどなくて、家族や友達と複数人でワイワイ食べるのが基本なんですよね。そのテーブルに「牛丼だけ」が並ぶ状態って、現地のカルチャーからするとかなり違和感があるわけです。
現場がサボっていたわけじゃありません。「日本で磨き抜いた『牛丼一筋』という最強の武器」を、そのまま持ち込んだことによる構造的なミスマッチです。
一方で、すき家は牛丼のほかにラーメンやカレーも出したりして、現地の若者が入りやすいように適応しました。丸亀製麺も、ローカルが手を出せる価格帯をキープしつつ、少しずつクオリティを上げる戦略をとっています。

「日本の高品質」という最強の装備にこだわらず、あえて手放して、現地の感覚(軽装備)に合わせていく身軽さがあるほうが、実は勝率が高かったりするんですよね。
ただ、こう言うと「じゃあ日本の強みを捨ててローカル企業の真似をしろってこと? それじゃ価格競争で勝てないよ」と心配されるかもしれません。
でも、永遠に日本の強みを捨てろという話じゃなくて、これ、単なる「出す順番」の問題なんです。
まずは現地の目線に合わせて泥臭く土台を作り、現地チームとの連携がしっかり回るようにする。日本が誇る「高品質」という重たい武器を乗せるのは、その土台ができてからで十分なんですよね。
日本の強みが通用しないわけじゃなく、まだ足腰が固まっていない初期フェーズで「最強の武器」を無理やり振らせようとするから、現場が疲弊して潰れてしまう。
要するに、「日本のやり方」を先に押し付けて現場を適応させようとするから無理が生じる。「現場の土台を作ってから、日本の強みを乗せる」のが本来のセオリーなのに、その手順を逆にしてしまっている。
商品が悪いわけでも、現場が怠慢なわけでもない。ただの「実装する順番のバグ」なんです。
本当のエグい裏ボスは、進出後にやってくる
「なんでシステム開発の人間が、飲食店の話をしているの?」と思われるかもしれません。
実はうちの会社、元々はシステム開発がメインなんですが、最近は「工場としてのベトナム(オフショア)」から「マーケット(市場)としてのベトナム」へと視点を広げて挑戦する企業さんがすごく増えているんです。
それに伴って、僕らもシステム開発だけでなく、会社設立やビザ取得、現地のプロモーションから市場創生までまるごと支援する「進出支援の部隊」としての顔も持つようになりました。
で、飲食からITまでいろんな業界の裏側を見てきて思うのは、少し引いた目線で見れば、どちらも同じ「モノづくり」だということ。

最終的な事業のクリア条件って、飲食でもITでも「お客さんの想像を超えて、顧客満足をつくること」で、まったく一緒なんですよね。
だから、目に見える牛丼か、目に見えないソースコードかの違いだけで、本質的に起きているバグの構造は驚くほど共通しています。
そして、本当に消耗するのは、進出という華やかなイベントが終わったあとの「ふつうの運用フェーズ」です。
最初はみんなテンションが高いし、本社の強力な後押しもあります。でも、1〜2年経って日常に戻ったころ、現地のスタッフが入れ替わり、教育が追いつかず、現場が手を抜いているわけじゃないのに、歩くたびにじわじわと現場の体力が削られていく。
「ゼロから1をつくる」よりも、「1を10のまま維持する」ほうが、ずっとハードモードなんです。事件は、きれいに整った会議室ではなく、いつだって泥臭い現場で起きています。
最初から完璧であることより、環境への適応力
5〜6年前のラーメン業界は、「できては潰れる」を繰り返すカオスな状態でした。でも今、暖暮や一風堂などは、ベトナムでしっかり根を張って安定しています。海外では、とんこつ強いです(笑)
彼らが生き残ったのは、最初から完璧な状態で挑んだからではなく、何度もほんとに全滅しかけながら、そのつど現地のルールに合わせて戦い方を変え続けたからだと思うんですよね。
「素晴らしい日本のプロダクト」と「現地で生き残れるプロダクト」は、残酷なほど別物です。生き残るのは一番強いやつではなく、変化に適応できたやつなんですよね。

さいごに:「なぜ噛み合わないんだ」と頭を抱える前に、作戦会議しませんか?
同じような「ゲームオーバー」の歴史が、今この瞬間も繰り返されています。
僕自身、システム業界に長くいる人間として、「気合や根性ではなく、根本的な構造(システム)のバグを見つけて解決する」ことにこだわってきました。
それでも、ベトナムの現場では数え切れないくらい失敗してきました。「仕組みを整えれば解決できる」と信じているシステム屋の僕でさえ、現地のカオスな環境では何度も想定外の壁にぶつかってきたんです。
もし今、日本からベトナム進出やオフショア開発を推進していて、「なぜ現地とうまく噛み合わないんだ」「現場のマネジメントが弱いのか?」と頭を抱えている経営者や事業責任者の方がいたら、一度視点を変えてみてほしいなと思います。
現場のスキル不足や戦略のミスではなく、単純に「構造のバグ」であることがほとんどです。異国でのビジネスって、そもそも初期設定がズレたまま走り出しやすい環境なだけなんですよね。「あ、誰かのせいじゃなくて、ただの構造のバグなんだ」と捉え直すだけで、次の一手が見えてくる気がします。
きれいにまとまったコンサルの提案書より、現場に落ちているリアルな「エラーログ(失敗談)」にこそ、攻略のヒントが詰まっている。僕はそう確信しています。
だから、そのモヤモヤ、まずは僕と少し話してみませんか?
ぜひお話しさせていただきたいのは、まさに日本で意思決定をして、現地の壁と向き合っている「経営層・事業責任者」の皆様です(もちろん、ベトナムの最前線で同じ志を持つ経営者の同志とも、もっと繋がりたいと思っています!)。
こうした場を設けている理由はシンプルで、フラットな情報交換が、お互いの事業にとって一番有益だからです。
僕が持つ「現場の生々しいエラーログ」を共有させていただく代わりに、皆様が今直面しているリアルな課題(一次情報)をお聞きできれば、僕らの市場解像度もさらに上がります。経営者や事業責任者として、本気で事業に向き合う方々との対話は、僕自身にとっても何よりの刺激になるんですよね。
「原田の持っている現場の知見を、自社の事業戦略のヒントにしてみるか」「次の一手を打つための壁打ち相手として使ってみるか」くらいの感覚で、ぜひ気軽な作戦会議にお越しください。
▼ リノエッジ原田祥吾との15分面談(作戦会議)はこちらから
(ただの壁打ち相手として、セーブポイントがわりに使ってもらえれば!)
【著者プロフィール】
![原田 祥吾(Shogo Harada) 株式会社[リノエッジ] 代表取締役](https://linnoedge.com/wp-content/uploads/2025/07/IMG_6941-e1752473648272-1024x1024.jpg)
原田 祥吾(Shogo Harada) 株式会社[リノエッジ] 代表取締役。 東京とベトナムの二拠点で、ITオフショア開発・海外進出支援事業を展開。
「気合いより仕組み」を信条に、不透明になりがちな越境ビジネスを構造化する経営者。
「個人のスキル」ではなく「再現性のある品質」を組織と顧客へ提供することにコミットしています。